昼間のことを思い出して、僕はひとり、苦笑いを浮かべた。
まさか、たったの2時間であんなに疲れるなんて。
あいつはきっと、他人を変えられると思っているんだろう。
そんなことできるわけないじゃん、と心の中でつぶやいた。
熱いコーヒーをすすり、軽く目をつむってみる。今日はやけに眠い。
体のどこかからエネルギーが漏れていく。そんな感じだ。
ふと、あいつの声を聞いた気がした。
「それって、あきらめだよね」
え、あきらめ?
「そう。変えることができないのなら、今のままでしょうがないってことじゃん」
右の方に、小さなコールドドリンクカップが見える。
透明なカップの底で夕陽に照らされた氷が、目に優しい。
中学生だろうか……今日は何曜日だっけ?
まあいいや。
シャラシャラと、シャーペンの走る音が心地よく、だんだんと遠ざかっていく。
ところどころ剥げかけた床の上から、懐かしい木の香りがした。
何年たっても、生徒会室の匂いは、忘れない。
四角く並べられた机。隅の方で自信なさげに、あの日の僕がいる。
僕は、正しかった。
世界は、正しくないことで溢れていた。
僕は、世界を変えなければならなかった。
僕は、世界を作っている、たくさんの人を変えなければならなかった。
肩に軽く触れ、「大丈夫だよ」とささやきかける。
「世界は変えられないかもしれないけど、君は必ず変われるからね」
僕は彼に、微笑みかけた。
それだけでいい。時期がくれば、彼は自分の力で変わっていく。
そのことを、僕はもう知っているのだ。
心地よい安心感が、彼と僕とを包み込んでいく。
いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。
視線の先に、少し水が入ったカップが見える。
さっきまで残っていた氷も、すっかり溶けてしまったようだ。
人影は、もうない。
僕は気持ちよく、カップを片付けることにした。
あいつが僕を変えることはできない。
そして、僕があいつを変えることもできない。
自分で変わることができれば、それで十分だ。
席に戻り、マグカップを手に取る。
すっかり冷めてしまったコーヒーが、さっきより少しだけ甘かった。
***************************************************
こんにちは!
8月にして、今年初の更新となりました。
昨年末から、自分自身の大きな変化の流れを感じていました。
そして、3月11日に起きた大地震と原発事故。首都圏に住む私も無縁でいることはできず、より深く、自分自身を見つめるきっかけとなりました。目をそらしてきたもの、自分の気持ちをごまかしてきたもの。もはや、そのままにしておくことはできなくなっているように感じます。
今も、いろいろなものに向き合っている途中です。その中で、少し気持ちが落ち着いてきたので、ブログを再開することにしました。これまでとは、少し違った形になるかもしれません。
今日は、初めて短い散文の形で書いてみました。そのほうが、書きやすく、伝わりやすいように感じたからです。私の実際の体験に基づいていますが、具体的な内容はフィクションです。どのようにお読みいただいてもかまいません。
いつも読んでいただきありがとうございます。心からの感謝を込めて。
Fuyuhiko